中国の企業は世界を征服できるのか? (FOREIGN AFFAIRS, March/April issue, 2016)

Pankaj Ghemawat (ニューヨーク大学教授)
Thomas Hout(Turts University, the University of Hong Kong’s School of Business)

 

 中国の最近の経済的もがきにも拘わらず、多くの経済学者や分析家は、中国は、アメリカに追いつく道を辿っており、近い将来世界第一の経済国になると論じている。事実、このことは、同意されたものではないとしても、太平洋を挟む両国で、主流となっている見解である。しかしながら、この考え方の提唱者は重要な事実を考慮することを怠っている。重要な事実とはすなわち、経済力はビジネス力と深くかかわっていると言うことであり、この分野では中国はアメリカにはるかに後れを取っている。(Many economists and analysts argue that the country remains on course to overtake the United States and become the world’s leading economic power someday soon. Indeed, this has become a mainstream view ? if not quite a consensus belief ? on both sides of the Pacific. But proponents of this position often neglect to take into account an important truth: economic power is closely related to business power, an area in which China still lags far behind the United States.)

 このことが中国の将来の見通しにどのように影響を与えるかを理解するために、何故主流を占めている強気の見通しがどうして出てきたかの理由を最初に把握して、将来中国が他国を凌ぐという考えを支持する根拠を検討することが重要である。一見すると多くのことは印象的である。中国の国民総生産は、2918年までにアメリカの国民総生産を凌ぐと言われている(たぶん無理だと思うが)。中国政府は3兆ドル(330兆円)以上の外貨準備高を持っている。(日本は1.26兆ドルで世界2位;アメリカはサウジアラビア、スイスに次いで第5位で4340億ドル:訳者注)この金額は他国を大きく引き離し、世界1位である。そして中国は貿易量においてもアメリカを凌いでいる。

 中国の株式価格は、昨年夏、そして、再び今年の初めに下落したので、投資家はこの国の株式市場に慎重になりはじめた。しかし、市場は中国の経済成長とは無関係であった。すなわち、1990年から2013年の中国の国民総生産は年間およそ10%の成長を示したが、株式市場はほとんど動かなかった。株価の最近の低迷は、中国の長年の停滞をしめすもの以上に、もはや中国の全般的経済の満足すべき状況を示すものではなくなっている。アメリカが20世紀の前半に、激しい株価の変動、恐慌から立ち直ったように、中国は現在の経済面での停滞から立ち直るであろう。

 しかしながら、マクロ経済のデータだけでは、全てを語りつくすことはできない。そして、起こり得る中国の短期的回復は長期的にはあまり意味がない。中国の今日までの成功は必ずしも中国が世界の第一の経済国としてアメリカを凌ぐということを意味するものではない。国民総生産、貿易量、準備金などの数値は全て経済力を反映している。しかし、これらの数値は経済力を全て包含するものではない。というのは、これらの数字の下には、成長を作り出し、富みを生む企業、産業の現実の世界があるからである。そして、中国企業の業績と今後の見通しをよく見てみると、中国がいまだに直面している障害を露呈している。

 中国、アメリカともに企業が国民総生産の約4分の3を占めている。より一般的な言い方をすれば、多国籍企業およびその供給者網が世界の輸出および海外投資の80%を占めている。言葉を変えていえば、経済力は産業界の力に負っている。

 過去30年の間に、中国の経済は安価な労働力で、アメリカの市場で爆発的に増加した。インフラを整備したり、外国からの投資を促進し、元の価値を相対的に低くすることによって、中国政府はこのような企業が繁栄するための条件を作り出した。

 しかしながら、もし中国が世界で最強の経済国になろうとしているのであれば、中国の産業は、より多くの競争力を必要とする資本集約的分野、ハイテク分野で他国を凌がなければならず、半導体とか医療機器、ジェット飛行機などのより手の込んだ製品を作り販売しなければならないということを学ばなければならない。

 中国が世界経済を凌駕することを信じている人々は、中国の会社が繊維や家庭電器のような複雑ではない分野でなしたように、第二世代分野でもうまくやっていくとしばしば仮定する。しかし、この仮定に疑問を挟む理由がある。

 中国の第一次経済ブームはアメリカやヨーロッパの会社が中国で安い労働力を求めたところから始まっている。そして、多くは外国企業により所有されていた何百という企業を中心になされたもので、技術を必要としない製品が輸出された。対照的に、資本集約的製品(他の製品を作るために用いられる製品)及びハイテク製品で成功するためには、少人数の得意先に適した製品を供給するための広い範囲に渡る技術を習得しなければならない。消費者に対する深い知識を持たなければならない、世界的な供給体制をやりくりしなければならない。中国企業が主として発展途上国で競いあった低価格製造分野とは異なり、資本集約的製品。ハイテク製品は、日本、韓国、アメリカ、ヨーロッパに本社のある規模の大きな、懐の広い他国籍企業に支配されている。

 その上、過去30年間中国が享受した豊富な労働力のような優位性のあるものは、資本集約的製品、ハイテク製品で成功するかを決める際の重要事項ではなくなっている。

 例えば、航空機製品やインターネット検索は、それぞれ、Boeing社とGoogle社によって先導されており、この二社ともに大きな国アメリカに本拠を置くものである。しかし、正確さを要求されるベアリング(SKF)や半導体メモリーチップ(Samsung)での指導的会社は、それぞれ、スウェーデン、韓国のような小さな国に本拠地を置いている。これらの会社の成功の基は、迎え入れる国によって与えられた利点というよりもむしろ、これらの会社の内部にあった。

 中国の経済力の将来は、中国の国民総生産がアメリカを超えるかということにかかっているのではなく、中国の企業が、資本集約的製品、ハイテク技術の製品を製造して、販売することに成功するかにかかっている。外国からの他国籍企業は、先進資本集約的製品では、中国国内市場では勝っており、中国は西欧の技術に大いに頼っている。21世紀で、最も問題となる分野で、中国企業は後れをとっており、そのことが、近い将来に中国が世界経済で卓越することを予言することを躊躇わせている。

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“下流”対“上流”

 未だ、西欧諸国に追いつこうとしている段階ではあるが、中国は資本集約的製品、ハイテク製品に移行する旅ではかなりの進歩を遂げており、これらの製品は輸出品の25%に達している。現在中国の生産者は輸送用コンテナ―、港でのクレーン、火力発電設備で世界市場(中国国内も含む)の50%〜75%を支配している。そして、電話通信設備、陸上風力タービン、高速鉄道システムなどについては15%〜30%の市場占有率を持っている。中国の企業は製造工程を単純化する能力を用いて、賃金の上昇、エネルギー価格の上昇にも拘わらず、元の切り下げ前にでさえも、西欧諸国の生産者に対して、資本集約的製品で10〜30%の生産コストの優位性を持っていた。中国政府の一兆ドルにおよぶユーロシアと中国を結ぶ道路、港湾設備を建設する「一帯一路政策」(One Belt, One Road)は中国企業に、中国本土からかなり遠い地で、有利性を与えた。又、中国政府は主要西欧諸国企業が中国国内で販売できる資本集約的製品やサービスの量を制限したり、中国企業に技術を移転することを求めたりして、中国の企業を助けた。しかし、未だ中国は内陸部風力発電、原子炉、ジェット輸送機などのより高価な、複雑な製品の追随者になっていない。西欧のある大きな航空機メーカの長が最近われわれに述べたことは、ジェットエンジンの部品を技術者にひっくり返してみて、それらをどのようにして作り、売るかを教えることと、これらの部品がどのように動くか確認する知識の技能を開発することは別物である。

 中国の能力は下流にむけられつつある。すなわち、輸入された技術を吸収し、製造を単純化し、より低い価格でより基本的製品のデザインをよくすることであった。その様な底辺での小手先の改良や革新は、船舶コンテナーや港湾設備などの成熟した技術に頼っている事業では非常に利点があった。しかし、西欧の多国籍企業は彼らのエネルギーを上流に集中する傾向があった。すなわち、消費者の技術的ニーズの深い知識を開発すること、新しい知識を織り込んだ高性能の製品を設計すること、ソフトウエア―の開発とか世界的供給網を効率的に管理することなどをマスターすること、に力をそそいだ。これらの資質は西欧の会社が原子炉、自動産業システム、ジェット航空機の市場で支配的地位をしめることとなった。中国の企業は上流の技術を開発するのに手間取った。そしてそのことは、なぜ資本集約的製品とか、ハイテク市場における中国の成功は部分的なものであり、 中国が下流の分野から、上流の分野へ何時移行できるかを不明確にしていることを部分的に説明している。

 西欧企業からの競争があったために、中国製の電話通信設備の輸出の増加は緩くなり、2010年の25%から2014年の10%に減少した。一方、中国はインフラ整備の世界での輸出はたったの15%しか占めていないが、この5年間増加していない。中国の輸出全体の伸びは2004年から2011年の年間平均17%の増加から、2011年から2015年には年間平均5%に減少した。そして資本集約的製品の占有率は25%と横ばいだった。中国は日本や韓国が成し遂げたようには下流の第一次製品からハイテクの第二次製品の輸出に移行していない。日本と韓国の一人当たり国民総生産が今の中国の国民総生産と同じであった時の両国からの資本集約的製品は、それぞれの国の輸出の25%以上を占めていた。そして両国の資本集約的製品の業績は横ばいとならずに、伸び続けた。

 中国企業の上流技術の相対的不足に加えて、世界的供給網を管理することとなると、ここでも挑戦しなければならない。中国の企業は典型的に建設設備の水力学、航空電子工学などの重要な部品の製造の仕方を学ぶことによってコストを下げようとしたために、それらを輸入しないですますことができている。ほとんどの西欧諸国の企業は異なるそのような部品の供給源を複数の国からもとめるなどの方法をとっている。すなわち、例えば、アジア、ヨーロッパ全土の供給者はApple社のアイホンやBoeing 787などに部品を供給している。これらの対照的な部品入手の形態は経営力をどうして生み出すかについて異なった見解を反映しているし、又、中国の歴史的自給自足の概念にとらわれていることを表している。中国政府当局はより多くの外国企業を中国に招き、外国から学び、外国企業を中国企業に置き換えるのに対して、西欧の多国籍企業は、国に関係なく、利用できる部品はどこからでも、得ようとする。この相違は、中国に生産規模の大きなものの開発を可能にするが、外国からの競争者は強力会社からより大きな競争力を引き出すことが可能になる。

道具をしらべてみる

 中国は、中国企業と外国からの多国籍企業の間での接戦を見るための特に興味のある場所である。それはなぜかと言うと、中国はほとんどの製品にとって世界最大の市場であること、及び世界の主要な会社が中国で操業しているためである。中国で外国企業に開かれた44産業の中で、中国企業が支配している産業は25あるのは驚くに値しない。その中にはソーラーパネル、建築設備、港湾用クレーンなどがある。しかしながら、外国多国籍企業が優位にたっている19の産業では、中国企業は、技術或はマーケってイングが不均衡で成功は難しい。中国で操業を行っている外国多国籍企業ではリードしている13の産業の内、10の産業で研究開発費が6%を上回っている。この産業には、ジェット航空機、ソフトウエア一式、半導体などが含まれる。そして広告宣伝費が歳入の6%以上を占める6産業のうち4つの産業で外国企業がリード役を果たしている。この産業には、炭酸飲料、医薬品、化粧品などが含まれる。

 中国市場のもう一つの目立つことは、過去10年間に、産業のリード役の会社が変わっていないということである。この期間に、問題としている44の産業で、中国の会社がリーダーとして2社のみが取って代わっただけだということである。すなわち、インターネットハードウエアと風力タービンであった。そして、風力タービンの場合、中国の産業政策により外国の生産者が市場にアクセスすることを制限するような差別的事例を設定して、彼らに中国製の部品を使うことを要求した。

 一方、中国がハイテク製品の世界でも主要な輸出国であると広まった概念を支持する証拠は少ししかない。中国はスマートホン、パーソナルコンピュータの輸出では、世界をリードしているが、これらの輸出額は精々これらの生産の15%を占めているに過ぎない。その理由は中国の会社は外国で作られた半導体、ソフトウエア―、カメラその他の進んだハイテク部品を組み立て、包装するだけであるからである。例えば天河二号(Tianhe-2)を考えて見よう。中国の会社Inspurで国防科学技術大学(the National University of Defense Technology)と共同で組み立てられたこのスーパーコンピュタは世界で一番はやいものである。しかし、アメリカで製造された、マイクロプロセッサーを組み立てたものである。

追いつこうとする努力

 西欧諸国の多国籍企業が資本集約的製品、ハイテクで卓越しているということは、二つの柱にもとづいている。すなわち、「優れた高性能な製品を作り出す革新の開かれたシステム:と「規模は世界的なものであるが、国内の要求にあった外国からの直接投資」である。もし中国の企業が産業界のリーダーとして挑戦したいと中国の企業は、これらの品質の中国独自のバージョンを作らなければならない。ある会社はその方向に向かって進んでいるが、進んだシステム、国際的供給網を管理することに経験不足であることから、かれらができることが制限されるであろう。

 現在の外国からの現職が享受しているすぐれた商業上の技術は中国が直面している主たる障害の一つであろう。2014年に中国は2,180億ドルの半導体の輸入を行ったが、この金額は石油についやした金額をはるかに上回っている。又中国は外国が所有している技術へのロイアルティーを210億ドル支払っており、この金額は2008年以来二倍になっていて中国政府をいら立たせている。

 昨年中国政府は”2025年Made in China”と呼ばれる重大な運動を打ち上げた。これは、これからの10年間に中国を革新的、環境に配慮した世界の製造国にすると言うものである。この計画は10の地区に40の革新センターをつくることを目指すもので、軽快な輸送、技術の伝播、宇宙航空などが含まれている。もし中国政府が最後までやり遂げれば、中国の私的、公的研究開発費は次の10年のある時点で、アメリカを遥かに超えることになるかもしれないし、 中国では研究開発に関して、高官の不正があり、研究開発費基金が適正に配分されないことなどを考慮しても、画期的な出来事となるかもしれない。研究費の増額は目に見える効果をもたらしている。すなわち、中国人研究者による論文は国際的評価を得つつある。論文の提出は2001年にゼロに近かったものが、2011年には9.5%となりアメリカに次いでいる。

 しかし、問題となるのは研究開発費だけではない。資本集約的製品やハイテク製品で成功を収めるためには、一連の制度的、社会的、法的な支えが必要となる。この連鎖の先端には、高レベルの大学院研究、学術誌を通じての自由な情報の交流、信頼できる知的財産の保護があり、反対側には、進んだ製品デザイン、革新的エンジニアリング、これらの連鎖の顧客との共同作業が必要とされる。アメリカではこれらの連鎖がそれぞれの分野で優れている。アメリカはSTEM 教育(Science(科学),Technology(テクノロジー),Engineering(工学).Mathematics(数学)の各分野およびそれらの総合的教育)の大学院の教育は定評がある。この教育で、アメリカに世界中から優秀な学生を引き付けているが、中国、インドからの学生が圧倒的に多い。(アメリカでの学位を得た多くの学生は中国に戻るという事実にも拘わらず、STEM教育の中国からの学生は、他の国の学生より多く、アメリカに残る傾向がある。) この10年間のアメリカ政府は防衛関係以外の研究開発費は横ばいであるが、アメリカ全体の研究開発費の4分の3近くを占めている企業の研究開発費は同じ期間で年平均3.5%増えている。アメリカの科学刊行物は引き続き研究成果を発表し続けているし、中国の研究者とは違い、アメリカの研究者は国家の研究機関で生み出される、知的財産からの恩恵を受けている。多くのドイツや日本の多国籍企業は中国の開発研究所に投資を行っているが、アメリカには、高度な知的財産保護があるために、ヨーロッパや日本の多国籍企業はアメリカで彼らの最も重要な計画の研究を行うようになっている。 

 追いつくために、中国は深?や北京の中関村の科学パークに開発とか起業の拠点を作りつつある。深?はHuawei, Xiaomi, DJI(ドローンの先駆的製造業者)などの多くの革新的企業の研究拠点となっている。しかし、そこにむらがる企業のほとんどは、高額な資本集約的製品、ハイテク製品ではなく、早期に結果を生む、開発に力を入れている。

 アメリカ政府による誤りをなくせば、誤りとは例えば国の開発費を減らすことが無ければ、アメリカが技術で競争力を失うと考える理由はない。しかし、アメリカの技術の発展が止まり、中国が追いつけば、中国の比較的安い生産コストにより、マーケットシェアーを増やすことになろう。このことは、石炭発電で用いられる設備で実際におこっていることである。すなわち、中国の会社は西欧の国の競争者に対して、品質の面で同等になり、安いコストを武器にして、世界的市場のリーダーとなっている。そして中国の賃金が上がり続け、元がある時点で評価替えされても、中国のコストの利点は、近いうちには失われそうもない。したがって、アメリカが先を進むことを望むのであれば、アメリカは技術で勝ち続けなければならない。

孤独な経済大国(中国)
 アメリカの経済面での優位性の鍵となる一つのことは、アメリカの外国市場での大きな投資である。アメリカの企業は海外の市場で3370億ドルの投資をおこなっており、これは国内投資の10%は十分に越している。アメリカの会社は6兆3000億ドルの海外への直接投資を行っている。このことは何故アメリカの会社がS&Pダウジョンス指数500に挙げられている会社全体の利益で、約40%が海外の事業で得られていることを説明する手助けとなる。国内での成長のペースが遅くなったことで、アメリカやヨーロッパに本拠地を置く会社は外国への直接投資を過去10年間に、平均年率7%の割合で増加させて。又日本の会社はそれ以上に早い割合で海外での直接投資の割合を増加させた。

 スタートは遅れたが、中国の多国籍企業もこのモデルを追随している。2014年の終わりまでには、中国の累積投資額は7,300億ドルに達し、後5年で、2兆ドルと3倍近くになると予想されている。この数字は、アメリカの現在の海外直接投資の3分の1以下ではあるが、驚くべきものである。初期の中国の海外投資は油田、鉱山であったが。最近では中国の企業は西欧の既存の企業あるいは、アメリカのさびれた工業地帯(rust belt)などの経営の悪化した工場を買収することによって価値を高めるための階段を昇って行った。 中国は10億ドルを使い、141の取引を成立させ、アメリカについでより多くの多国籍企業の受け皿になっている。

 しかしながら、後発の多国籍化を行ってきた中国は、西欧諸国より危険な外国投資の戦略をとっている。中国投資の最大の受け入れ先はアースとラリアとアメリカであるが、中国の外国直接投資の半分以上はアジア、アフリカ、ラテンアメリカ、中東の発展途上国である。危険であればあるほど、中国は好んで彼らの金をこれらの国につぎ込んでいるように思える。例えば、中国はアフガニスタン、アンゴラとかエクワドルなどでいとも簡単に第一の外国からの投資者になった。ほとんど西欧人が戦争の危険とか債務不履行などで敬遠している場所である。政治学者David Shambaughは、中国は親しい同盟国のいない孤独な強国であると揶揄した。財政援助を伴う公共事業、押しつけがましいアジアインフラ投資銀行などは中国政府による、この図式を変えようとする戦略の一つである。

 この方法は機能するかもしれない。しかし、やがては、西欧多国籍企業は、より信用度の高い、より民主的体制を持つ、安定した発展途上国の主たる投資者となり、その結果、利益を得ることになる。2014年にEUと日本は合わせて、東南アジア諸国で、中国より多く投資している。アメリカの会社だけでも、アジア(除く日本)及びラテンアメリカで1140億ドルの投資を行っているこの戦略の結果、中国の大胆な投資はかなりの関心がもたれたが、西欧諸国や日本の資本集約的製品やハイテクの多国籍企業は宣伝こそないが、存続し続け、より大きな、より強力な地位を世界で占めるであろう。中国は典型的な後発者であり、より危険な資産に投資をし、二番手の西欧諸国の技術会社を買収している。この方法は追いつくには良い方法であるが、経済を支配する道ではない。

中国的モデル?

 中国が支配的地位を占めるであろうと予言する人たちは、二つの経済概念を指摘する。製品のライフサイクルとイノベーションである。第一の製品のライフサイクルは進んだ経済社会で作り出されるが、次第に低コストの発展しつつある経済社会で作られるようになると推測をする。第二のイノベーションの過程では、先端を行く製品は、次第に、技術開発で良質な低価格の製品にその地位を奪われることになる。しかし、この二つをあまり強調すると次のことを見失うことになる。現在の多国籍企業は資本集約的製品とかハイテク製品がこのような結果になってしまうことを、製品の幅を広げたり、異なる地域に販売網を広げたり、販売網を世界中の消費者に適合させることによって、防ぐことが出来る。

 例えば、インドに本拠地を置くアメリカのディーゼルエンジンの製造会社、Cummins社の例を挙げれば、同社は中国、インド、ヨーロッパ、北アメリカでいろいろな価格で異なる形をした姉妹製品を開発して、製造している。同社は中国の高性能ディーゼルエンジン分野で市場占有率第一位であるが、世界的な製品販売と研究開発により中国から製品を輸出するよりも多くの製品を中国に輸出している。そのような世界的操業は国をまたがる共同、多くの場所での技術の深さ、国際経験豊かな中間管理者を必要とする。

 このような利点を享受している中国の企業は少ない。多くの中国企業は生産を中国国内で行いたがる。単純化した組織を好む。産業界の長としての自治を維持することを好んだ。中国の第一期ブームの際ではこの無駄を取り除いた中国もですは、非常によく機能した。しかし、近年、多くの中国企業が国際化に適応するのに苦しんでいる。しかし、例外はある。例えば、Lenovo社がそうであった。同社はヒューレットパッカード、デルを抜いて、2013年に世界最大のパーソナルコンピュータの生産者となった。これは責任を異常なほどに各国に分散したことによるもので、この分散には、従来からの本社なしで済ませ、インドのBangaloreを営業の拠点としたことなどが含まれる。企業によって異なるが、中国企業の国際化に適合しようとする努力はこれからもしばらくの間続くであろう。やがては、丁度他の主要経済国にそうしたように、中国は市場シェアーを増やすであろう。しかし、独特の「中国モデル」は現れそうもないし、中国の成功率がすぐ劇的に増えるであろうとは思えない。

中国の長い登り道
 中国が必ず経済の制覇するとの見解の提唱者はアメリカは強力であるが、混乱した自由経済や政治的立往生のために発展のテンポはおそくなっていると主張しがちである。そして、はっきりとした政策、戦略のお蔭で中国を上がり調子の上昇国とみる傾向がある。しかしこの単純な見解は、企業や市場がどのようにして、外的要因によって反応するか、十分に説明していない。アメリカ文化の休みのない競争、アメリカ企業の政治的影響、アメリカの大学・政府研究機関の研究の効率の良さ、アメリカの新しい技術や企業に対する財政体型、能力あるものを引き込む移民政策、企業活動に報いを与える法律や税制、アメリカの唯一の大国であるという地位、ドルは世界の唯一の準備通貨であることなどからアメリカの産業界は影響を受けている。

 勿論、アメリカの経済力を脅かす内部要因も勿論ある。例えば。政府の科学研究への支出に反対する右翼の存在、優良会社で長期的な革新の代わりに、短期的利益に照準をあてる活発な株主の存在があるしかし、30年前、日本が経済力でアメリカに追いつくとある観察者は信じていたが、技術経営、革新的国家、地方自治体の比類のないアメリカの卓越さを作り出すと予言するものは少なかった。

 中国の経済は異なるもので、消費よりも投資を優遇する長期的見通しに立った政策、地元企業の飛躍剤となる政府の外資導入政策、国営企業が足を引っ張っているにも関わらず成功をおさめている大胆な個人経営者、アジアを経済の中心地に持ってこようとしていること、大きな国内市場等、強力な基礎をもっている。同時に、多くのことが中国の障害となっている。その中には、市場の力をそぐ国営企業の非効率さ、自由の情報の流れを阻害するものなどがある。

 外部的要因がどのように中国の経済力の成長に影響を与えるか予測することは難しい。中国内外の人たちは、国営企業が制限され、Hauwei, LenovoやAlibabaのような印象的な独立会社が勃興してくるとは考えていない。先を見て、中国の経済減速が、中国企業の国際競争力にどのような影響を与えるか知るのは難しい。すなわち、経済減速は大きな打撃をもたらすかもしれない。しかし、この減速は倒産を引き起こし、産業界の再編成をもたらすかもしれないが、より少数の、より力のある会社の手に力を集中することとなり、それらの会社が世界市場でより強力な力となるのではないか。

 より広く言えば、他の世界が、中国が力を伸ばしていることに対して、どのように反応するかを知ることは難しい。中国が天然資源の大量の買い手になった時、多くの研究者は商品が高騰することに警笛を鳴らした。代わりに起こったことは、採掘者は供給を増やすための別の方法を見つけ出し、政府と企業は資源を保存して、効率を高める新しい方法を見出した。 世界の体制はこれに順応して、世界の商品の価格は20年前よりも実質で低くなった。中国多国籍企業が国際市場に参入したと同じように、西欧諸国の多国籍企業は、革新、統合を行い、新しい需要源を開発していった。

 その上、アメリカと中国の政治体制も固定されたものではない。両国共に、自身で受けた傷を負うと同時に、大いに適合する経験をしてきている。この状況は変わるとは思われない。

 中国経済が必然的にアメリカを凌駕すると自信を持って言う根拠は見いだせない。中国は力を付けているが、長い上り坂に直面している。アメリカと中国との競争がどうなるかは、明確ではなく、21世紀の経済を支配するような製品とサービスおいて、西欧諸国の多国籍企業と政府が現存してる優位性をどのように利用するか、及び中国がこれに対してこの競争に勝つかための能力があるかにかかっている。(Confidence in the inevitability of Chinese economic dominance is unfounded. China is gaining strength but faces a long climb. The outcome of the U.S, - Chinese contest is far from clear and depends at least as much on how well Western multinationals and governments exploit their existing advantages as on China’s ability to up its game when it comes to the kinds of products that will define the twenty-first-century economy.)